6月26日は息子の1歳の誕生日でした。お祝いのメッセージなどをいただき、感謝の気持ちでいっぱいです。お一人ずつお礼をすることができないので、息子への「手紙」をもって、みなさんへのお礼に代えさせていただきます。息子はいま4600㌘を超え、小さいけれど元気です。長文ですので、お時間がある方はお読みください。また、超低体重児のお子さんがいるご家族にとって、少しでも希望になれば幸いです。
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【10年後の君へ】
お母さんのお腹の中で君が生まれたとき、お父さんは本当に嬉しかったんだよ。お腹の中にいる君の写真を初めて見たとき、エンドウ豆みたいで、愛おしくて泣いちゃった。
お母さんが君を産むとき、きっと大変な思いをするだろうから、お母さんの手を握っていようかな、それとも気が散るかもしれないから、やっぱり分娩室の外で待っていた方がいいかなと、あれこれ考えていたよ。でも、生まれたときには、きっと喜びに満ちあふれていると信じて疑わなかった。
しばらくして、お母さんの具合が悪くなって、君もどんどん元気がなくなって、手術をして君をお腹の中から取り出すことにしたんだ。
お母さんは強い人だから、普段泣いたりはしないけれど、手術室に入るときは不安でいっぱいだった。絶対に手術が成功して、二人とも生きていてほしいと、お父さんも祈るような気持ちだったよ。
しばらくして、保育器という透明な箱に入った君が出てきた。生きているんだって、すごく嬉しかったよ。でも、その姿を見て、とてもびっくりした。これまで見たことがないような小さな、小さな赤ちゃんだったんだ。体重は658㌘。手のひらに乗るくらいの大きさで、自分で息もできなくて苦しそうだった。お父さんは「頑張れ、頑張れ」って、何度も声をかけたよ。
そして、お母さんも手術室から出てきた。だいぶ血が出たけれど、お母さんも無事で本当に安心したよ。
その後、お医者さんが、お父さんとお母さんを心配させないように、ゆっくりと説明してくれた。とっても小さく生まれたから、まだ体の機能が十分ではなかったんだ。お医者さんも「大丈夫」だとは言えなかった。
お父さんはお母さんを何とか励まそうとしたけれど、「死んじゃったらどうするの」って大きな声で言われて、やっぱりお父さんも心配だったけど、君は強い子だからきっと大丈夫だと信じることにしたんだ。そして、夜通し名前を考えた――。
君の名前には「過去・現在・未来へと続く命のリレーを果たしたあなたは、家族の希望であり、人びとの希望」という願いが込められているよ。
後になって、この名前に間違いはなかったとわかったんだ。
お父さんは家にいることが少ないし、なかなか君と遊べなくてごめんね。本当はお父さんも寂しいよ。君が生まれる直前も、お父さんは「選挙」に出ることを決めて、北海道中を回っていたんだけど、君が急に生まれることになった。それからは仕事をしながら毎日病院に通って、お母さんとお母さんのお乳を運んでいたんだ。君に会えることはすごく嬉しかった。「今日も生きていてくれてありがとう」って、ケースの中の君にいつも感謝していたよ。
でも、お父さんも少しだけ大変だったかな。そんなお父さんの姿を見て、お父さんの仲間たちや、たくさんの人が励ましてくれたよ。君も、お母さんも大丈夫だと伝えると、涙を流して喜んでくれる人もいた。お父さんも、君も、一人じゃないし、君の存在がみんなの希望になっているとわかったんだ。他人のことなのに、自分のことのように考え、支え合うことができる社会って、とても素敵だと思ったよ。
それから、君を一日中、支えてくれたのはお医者さんや看護師さん。体調の変化を少しも見過ごさず、24時間、注意深く見守ってくれた。命の恩人だよ。
もちろん、君自身がものすごく頑張った。生まれてから何度も具合が悪くなったけど、君は決して生きることを諦めず、耐え抜いた。そして、ゆっくりとだけれども、体も大きくなって、3ヵ月と少ししてから退院することができたんだ。お母さんはとても嬉しくて、でもまだまだ心配で、目を真っ赤に腫らしていたよ。そんなことは何も気にしない様子で、君は初めて外の空気に触れた。一瞬、びっくりして目を開けたけれど、また目を閉じて、眠りについたね。
ところで、君がNICU(新生児集中治療室)の保育器の中にいたとき、お父さんの指を握ってくれたのは覚えていないよね。お父さんの親指の半分くらいしかない小さな手で、ぎゅっと握ってくれたんだよ。こんな小さな子にも力がある。ちゃんと生きようとしているんだって・・。
10年後、君が生きている日本はどんな社会になっているかな。お父さんは、君が、君らしく生きられる社会にしたいと思って、いま「選挙」をしているよ。
年頃の君は、これから自分と向き合うことが増えてくるかもしれないね。トンネルの中をさまようように、生きることについて自問自答することもあると思う。そんなとき、ひとつだけ、忘れないでほしい。それは、命はひとつしかないということ――。誰の命もかけがえのないものだし、誰とも替わることができないよ。もちろん、君自身も。そして、そのことを一番大切にしているのが、日本国憲法なんだ。
それから、もうひとつ覚えておいてね。ときどき君のことを叱るけれど、君はいくつになっても、お父さんとお母さんの大切な子どもだよ。
生まれてきてくれてありがとう。生きていてくれて、ありがとう。
[14回]
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