TPP(環太平洋連携協定)の批准にむけて、国会での動きが緊迫した状況になってきました。政府・与党は、TPP承認案と関連法案を、週明けにも衆議院で採決しようとねらっています。国の命運がかかった大問題を、日程先にありきで進めることは、絶対に許されません。
TPPをめぐる今国会の審議は異常続きです。衆院のTPP特別委員会の理事だった自民党議員が、TPP承認案について「強行採決という形で実現する」と暴言を吐き、理事を辞任しました。これについて安倍首相は、「わが党においては結党以来、強行採決しようと考えたことはない」と述べ、波紋を広げましたが、その翌日に、今度は山本有二農水相が、「強行採決するかどうかは、(衆院議院運営委員長の)佐藤さんが決める」と、強行採決をけしかけるような発言を行いました。国会を私物化し、民主主義を踏みにじるものです。
国民が求めているのは「慎重審議」です。共同通信が先月実施した世論調査では、73%の方が、今回の「臨時国会にこだわらず慎重に審議するべきだ」と答えています。TPPは「心配だ」「よくわからない」という方が多い。だからこそ、日本共産党は、民進党、自由党、社民党のみなさんとも連携して、徹底審議を求めています。
そもそも、審議の前提条件がつくられていません。TPP交渉にあたった当事者が、国会審議の場にいません。甘利明・前TPP担当相は、口利き疑惑で辞任しました。野党は甘利氏の国会招致を求めていますが、安倍首相はこれを拒否。後継の石原伸晃担当大臣は、甘利氏との引き継ぎは電話でわずか20分程度、その後も立ち話程度だったと明かしています。
さらに、政府が提出したTPPの交渉内容をまとめた文書は、表題と日付を除いてすべて黒塗りで、野党がくり返し情報開示を求めているにも関わらず、応じていません。協定文書の日本語訳に18カ所の誤訳があり、なかには正反対の言葉に訳されていたことも判明しています。まともな審議ができる状況ではありません。
同時に、限られた情報のなかでも、国会審議を通じてTPPの重大な問題が、いくつも浮き彫りになっています。米や麦、牛肉・豚肉などの農産物の重要5項目について、「無傷なものはない」と農水大臣は認めています。重要5項目の3割について関税が撤廃されるほか、特別な輸入枠がつくられ、関税が大幅に引き下げられます。
例えば、牛肉は、38・5%の関税を16年後には9%まで、引き下げられます。安倍首相は、輸入量が急増した場合、関税を元に戻し輸入量を抑える「セーフガード」を発動できるといいますが、16年後の発動できる基準は、自給率10%まで低下したときです。畜産は崩壊寸前です。しかも、最終的に関税はゼロ。農産物の重要5項目は「聖域」にするとした国会決議に反しているのは明らです。
TPP影響試算がデタラメであることもわかってきました。SBSと呼ばれる国家貿易による輸入米の価格が偽装されていました。安倍政権は、輸入米が増えてもSBSの仕組みで、国産米の価格に影響はないとしていましたが、実際は輸入業者が卸売業者に対し「調整金」という名の裏金を渡す行為が横行し、輸入米の値引きに使われていた事実を、農水相も認めました。TPPの影響試算が根拠を失った以上、やり直すのが当然です。
さらに恐ろしいのがTPPのISDS条項です。これは、外国企業が投資先の国を訴えることができる仕組みで、暮らしや環境を守る国や自治体の制度よりも、多国籍企業の利益が優先されることになります。例えば、札幌には住宅リフォーム制度があり、市内の建設業者が仕事を請け負っていますが、こうした制度も問題になるかもしれません。外務省はすでに「国際経済紛争処理室」を設置し、ISDS条項で日本政府が訴えられたときの対策を始めています。TPPは外国企業による内政干渉に、道を開くことになります。
多国籍企業の利益が何より優先され、産業や雇用、国民生活が犠牲になり、国の主権が脅かされるTPP――。だからこそ、各国で反対運動が広がり、アメリカの大統領候補もそろってTPP協定に反対する状況になっています。現在、TPP参加国で批准した国はひとつもありません。こうしたなかで、前のめりになっている安倍政権の姿勢はあまりに異常です。
日本がいま力を入れるべきは、安心して再生産できる農林水産業の環境づくりであり、中小企業への支援であり、各国の主権を尊重した貿易のルールづくりです。徹底審議で協定の全容と問題点を明らかにするとともに、野党と国民のたたかいを広げ、必ず廃案に追い込むために、力を合わせましょう!
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